囚人とニャース
ニャースを犯したい。私の願望である。
昔からポケモンに欲情してしまうのが私の悩みだったが、ニャースに対する欲情は他のポケモンに対するそれと大幅に違ったのだった。
あの引き締まった猫の尻にかぶりつきたい。
「今日こそニャースを犯す」
私は覚悟を決めた。
犯す。
あのポケモンを犯す。
犯してやる。
なかば脅迫概念に取り憑かれているのかもしれない。
たとえそれが私の首を結果的に絞めたとしてもかまわない。
私は今日、ニャースを犯しつくすのだ。
そのためにはニャースを捕まえなくては。トレーナーらしくポケモンゲットしなくては。そして犯してやるのだ。
「ニャースはどこだ」
愛しくてたまらないニャースがみつからない。
逃げられたか。
よかろう、ならば地獄の底まででも追いかけてやる。
それから私の旅は始まった。
道中、行く手数多のトレーナーたちに絡まれたりもしたが私を止められるものは誰もいなかった。
「ニャース」
それでもニャースは見つからない。
気がつくと私は教会の前にいた。
お金も食べ物もなにもない。いや、本当になにもなくなってしまった。人生というものがニャースのせいでなくなってしまったのだった。
「死に場所にはちょうどいいかな」
教会に入ると静寂が私をつつむ。
目の前にはロザリオを持った女神像。
「女神の前で死ねるとは光栄だ」
私は女神像に横たわり目をつぶる。弱った身体だ。今、意識を失えば衰弱して楽に死ねるだろう。
だが唯一の心残りはやはりニャースだ。
やつに一度でも会いたかった。
そして犯したかった。
それもいまや叶わぬ夢だが。
「くたばれ」
私は中指を天へと突き立てる。弱り切った身体、もう動くこともままならなかったが最後の力を振り絞って天へと反吐を吐いたのだ。
ニャースを犯すはずが、私が犯されてしまったのかもしれない。
皮肉なものだ。
そのときである。
「ニャー!」
この声、私が追い求めていたもの。
「ニャ、ニャース……!」
「ニャー!」
ついに対面した。
涙が溢れ、止まらない。
天へと願いは届いたのだ。
「ニャー! ニャー!」
ニャースは私をせかす。
ああ、そうか。そういうことか。
「はは、あわてるなよ。ゆっくり行こう。時間はたっぷりあるんだから」
私はニャースのあとを追うように追いかける。
天使のお迎えってのは自分の求めた最愛の人の姿をしていると聞く。
つまりはそういうことだ。
お迎えがニャース、最高のご褒美だ。
ゆっくりと天へと昇る私とニャースをみて、女神像は微笑んだ。
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