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ゆ毒サンプル
東方の風見幽香さんに狂おしいほど愛されたい



(プロローグ)

 毒というものは決して身近にあるものではない。
 派手な色のキノコを好んで食べる者はいないし、処理のされていないフグは料亭で出てこない。日常から離れた、一本の線を引かれた向こう側に毒が位置している。
 だがその一方で、こんな事を誰かが言った。
「世の中は毒で満ち溢れている」
 どんな物質でも、過剰に摂取すればそれは瞬く間に毒へと変わって脳や肉体を蝕み、生き物を死に至らせるという。水でさえ、空気でさえ、毒である。大量に体内に取り込まれた水は低ナトリウム血症を引き起こし、意識を海よりも暗いところへ引きずり込んでしまう。純粋な酸素は細胞分子を手足を痺れさせ、眼球の毛細血管を破裂させて視界を奪い、身体の機能が停止するまで嘲笑いながら私を包み込む。
 俺が必要としているものでさえ、俺を殺せるのだ。目に見えるところに毒が存在しているのがこの世界の現状であった
 呑気に日々を過ごす俺を驚かすのに十分だったこの情報は、ひとつの疑問を浮かび上がらせた。
「じゃあ、ゆうかりんは毒なんだろうか?」
 毒が蔓延するこの世界なら、ゆうかりんも毒である可能性が高い。それも、もしかしたら特別に濃厚で、刺激的で、危険な毒。馬鹿げた疑問ではあると思うが、俺には特に気掛かりだった。
 ……なんでかって? 誰よりも過剰摂取している気がしたからね、俺。ちょっと不安だったんだよ。



(1)

「んっ……ごほっ! ごほっ! げほっげほっ! ごっほっ! んんー……」
「あら、大丈夫? また? ゆっくり食べないからそういう事になるのよ」
 またむせてしまった。食べ物が入っちゃいけないところに入ったせいで醜態を晒してしまう。咄嗟に口を押さえたのだが、テーブルの上には唾液や米粒などが飛び散って、汚らしい事になってしまった。
 ゆうかりんが「また」というのも無理はない、情けないことだが、最近食事中にむせてばっかりだ。昨日の朝は焦って牛乳をこぼしてしまって、とてつもなく面倒だった。なんだか食事すら満足にできない老人みたいで嫌なものだ。
 布巾を取ろうと手を伸ばしたら、先にゆうかりんの手がそれを持って行ってしまった。テーブルの向こう側から身体をうんと伸ばして俺の前を拭いてくれる。ゆうかりんの気遣いに、嬉しさと申し訳無さが入り混じって、何と言ったものやら、といった感じだ。
「子供じゃないんだから、ご飯くらい落ち着いて食べなさい。良く噛まないと身体にも悪いのよ?」
 ゆうかりんはこういう時は手厳しい。俺がしっかりしていないと、自分まで恥ずかしいんだと。そう言って聞かせてくれるが、ゆうかりんも結構せわしなく食べる方だと俺は思っている。思っていても、口にはしないだけだ。
 丁寧に拭いてくれたおかげでテーブルは綺麗になった。厄を払うようにちょっとうるさい咳払いをして、深く座り直してまた食事に戻る。今日一日もこんな始まり方になってしまった。最近は疲れが溜まっているのか食事中に失敗をすることが多い。その度にゆうかりんに迷惑をかけてしまうことが、俺にプレッシャーを与えている。
 味噌汁を啜る俺の横に、ゆうかりんが椅子を持ってやってきた。手に持った箸を俺の目の前にかざして、ぴこぴこと動かして見せる。
「私が食べさせてあげたら喉に詰まることもないんじゃない?」
 そう言って、俺にとびきりの笑顔を見せてくれた。調子のいい事ばかり言っちゃって。なんだか子供みたいだ。さっき「子供じゃないんだから」なんて言ったのはどこの誰だったっけかな。

 食器を適当に片付けて、歯を磨いて、顔を洗う。いつもと変わらない朝の風景だ。だが、妙な感覚がずっと自分に付きまとっている事には気付いていた。よくわからないが、なんとなく不快な感覚だ。顔を拭き終わって、着替えている時にゆうかりんが話しかけてくる。
「最近調子が悪そうね、たまには家でゆっくりすればいいのに」
 どことなく心配そうな顔付きで見上げられた。すすすっと身体を寄せて、ゆうかりんが蝶のように俺の左腕にとまる。パジャマが脱ぎ辛くなってしまった。
「一日かけてお食事のマナーを教えてくれるのかい。嬉しいし、楽しそうだけど、それだけじゃ仕事を休めないよ」
 少し冷たく言い放って、身体を揺すぶってやった。腕にとまった蝶が離れる。食事中に急にむせたりする程度じゃ仕事は休めない、当然である。何よりそれが、自分とゆうかりんの将来のための貯蓄に繋がるのであれば尚更だ。無理をしているわけではないが、適度に身体にムチを打って頑張っている。二人で更なる幸せを掴むことを願って、今はただ金を稼ぐことに傾注している。これが休めない理由だ。その分、ゆうかりんの顔を見つめていられる時間が減ってしまうのが問題点だ。俺にとっての重要な時間だが、家を空ける時間が増えるためにどうしてもおざなりになってしまう。そりゃあもの悲しいが、今は我慢する時なのだと自分に言い聞かせている。
 すぐ近くで俺の顔を見続けるゆうかりんを避けるように身体をくねらせて、器用に服を脱いでやる俺。ゆうかりんが語気を強くして、言い放った。
「でもあなた、それだけじゃないでしょ?
最近よく転ぶじゃない。少し動いただけで疲れた顔するし、朝だって私よりお寝坊さんじゃない。全く、私が何も知らないと思ったら大間違いなんだから」
 これにはギクリとさせられた。音が出そうなくらい、動揺させられてしまった。
 何故かと言うと、全部当たっているのだ。最近自分の身体に出始めた諸症状に、全てが当てはまっている。最近どうにも身体の調子が悪い。それも、体調不良だと言い切ってしまうようなものではなくて、日常のほんの些細な部分に困らされている。時々、立っていると急にふらついてしまったり、手足に力が入らなくなったりする。朝はゆうかりんよりも早く起きて、その寝顔を太陽の光に照らして見るのが好きだったのに、いつの間にか立場は逆転してしまっていた。いつもゆうかりんに身体を揺すられて起こされる。道を歩けばすぐに疲れるし、時々荷物が勝手に手から転げ落ちてしまう。酷いのは食事中だった。さっきみたいに食べている途中にむせるのはもちろんだし、箸は手から逃げていくし、口の端から水が垂れたりする。疲れているのか、とも思うが、原因として思いつく節は見当たらず、症状だけが宙ぶらりんになっていた。寿命なのかと疑う事もできるが、それは認めたくないものだ。
 自分の身体の状態を、油を注さないで長年使用した自転車みたいだ、と思う。整備された歩道ならスイスイ走れるが、いざ曲がったり土の上を走ったりすると、途端に機能の不足を感じさせられてしまう。そんな不便さだ。
 ゆうかりんの前では隠しているつもりだったが、ここまで細かく当てられてしまうと、もはや何も言えなくなってしまう。少しずつ日常生活を侵食し始めていたこの症状、余計な不安を産みかねないのでゆうかりんには隠しておきたかったのだが、彼女の反応を見る限り、それは夢物語だったみたいだ。俺の事を一番知っているのは、俺じゃなくてゆうかりん。そんな素敵な言葉を思い起こさせた。
「ゆうかりんは、……物知りだね」
「そうね」
 何か言おうと思って口から出た言葉が、この程度である。
 俺の顔色を好きなだけ伺ったゆうかりんは、さっき脱いだパジャマを手に拾い、そのまま俺の身体にあてがってきた。また着替えろと言っているようだ。
「今日一日くらい寝ててもバチは当たらないわ。好きなだけ看病してあげるから、今日は寝なさい」
 反論しようとする俺を制するようにして、口元に人差し指を当てられる。今日の俺には発言権すら無いらしい。ぐいぐいと押し当てられるパジャマに早々に降伏させられる。また俺は着替えないといけないようだ。
「とりあえず、今は横になるの。わかった? お花屋さんには私が断ってきてあげるから」
 俺の職場である人里の花屋に顔が効くのは、下っ端従業員の俺よりもお得意さんのゆうかりんの方である。正直なところを言ってしまうと、俺一人が休んだところであまり客入りも売り上げも変わらないと思うから、案外気は楽なものだが。
 仕方が無いので、また布団に潜り込んだ。ゆうかりんが隣にいない、一人で寝るベッドの上には少しだけ寂しい広さを持っていた。ゆうかりんはそんな俺の様子を見て軽く微笑み、赤のチェックの外行きの服に着替え始めた。着替えを手伝ってあげようか、と声を出したのだけど、ゆうかりんには聞こえないフリをされてしまう。だめだ、こうなってしまうとゆうかりんは何も聞いてくれない。自分の事と、お花の事と、俺の事に関しては一直線なゆうかりん。融通なんて全く利かない、我が家の困り者だ。
「じゃあ、いい子にして待ってるのよ。帰ってきたらおかゆでも作ってあげようかしら?」
 さっき朝食を済ませたばっかりだっていうのに、この子ときたら。
 ゆうかりんが寝室から出ていく前に、枕元にぽんぽんと花を咲かせていってくれた。彼女の持つ特別な能力を持ってさえすれば、開花を操る事など造作もない。黄色や青の花がこうべを垂れて、俺の周りに香水にも引けを取らないかぐわしい香りが充満する。こっちのが「リラックス効果がある香りを出す花」で、こっちが「睡眠を深くする効果がある香りを出す花」らしい。俺が必要としている花を瞬時に咲かせるなんて、医者も薬屋も顔負けの特技だ。
「そしてこっちが」
 と短く言って、俺のすぐ横に小さいピンクの花を咲かせた。寝返りを打つと、目と目が合ってしまいそうな距離。
「あなたと一緒にお留守番してくれる、可愛い花よ」
 だそうだ。さぞ楽しそうに、ゆうかりんは微笑んだ。そうして俺の額に、香水みたいに軽い口づけを残してくれる。
「行ってくるわね」
 ちょっと花の香りがキツすぎる、これじゃあ逆に落ち着かないよ、と言おうとした時には既に寝室の扉は閉まっていた。一人になると、この部屋はとたんに静かだ。


アリスチック・ドリーミング・ドール・アンド・フラワー


   1.

「すぐに死んでしまう毒と、ゆっくりと死んでいく毒だったら、アリスはどっちがいいと思う?」
 紅茶を飲んでいた私に対して、幽香はそんなことを聞いてきた。
「……どうしたの、突然」
「特に意味なんてないわ。他愛のない世間話よ」
「普通、世間話で毒の話を選ぶかしら……」
 僅かに呆れながら、私は再び紅茶を口にした。幽香が淹れてくれた紅茶は色々な種類の花を使っているのでころころと味が変わる。
 まあ、幽香のわかりにくい話は今に始まったことじゃない。私がたまに幽香の家を訪れてみると、こうしてよく分からない事を聞いて反応を楽しんでいるのだ。
「遅効性の毒と即効性の毒……ってことよね?」
「ええ、そうね」
「だったら遅効性の毒かしら。すぐに死んじゃったらどうにも出来ないけど、徐々に死んでいくならそれまでの間に色々と出来るじゃない。もしかしたら解毒出来るかもしれないし」
 幽香はその私の答えを、鼻歌でも歌い出しそうなぐらいどこか楽しげに聞いていた。
「……何か悪い?」
「いいえ、ちっとも。貴方らしいって思っただけよ」
 肯定とも否定ともとれるような返事をしただけで、幽香はそれ以上何も聞こうとしなかった。
「……いいけどね。それよりそろそろ教えてくれない?」
「教えるって、さっき言ってた鈴蘭のこと?」
 私は頷いた。
「そう、鈴蘭について。今日だってそれを聞きに来たのにちっとも話してくれないんだもの」
「いいじゃない。私の所にお客が来るなんて滅多にないんだから、少しぐらい無駄話に付き合ってくれるのが礼儀ってものよ」
 それでさっきから微妙にはぐらかされ続けてきたのか……。
 むーっとしてると不機嫌オーラを察したのか、幽香はやれやれといった様子で口を開いた。
「教えてもいいけどね。目的はあの鈴蘭畑にいる人形?」
「そうだけど……幽香知ってたの? あの娘のこと」
「ええ。ちょっと前に縁があってね。貴方が鈴蘭に興味をもつ理由なんて、あの子以外いないでしょう?」
 幽香はいたずらっぽく微笑みながらそう言った。……どうやらずっとからかわれていたみたいだ。
「全く相変わらずなんだから……分かってるなら話が早いわ。あのメディスンって娘と仲良くなりたいのよ」
「仲良くなって、それでどうするの?」
「決まってるじゃない……研究するのよ! あの娘人形なのに誰にも操られず動いてるのよ。あの髪、あのボディ、あの瞳、ぜーんぶ人形そのものなのに! 鈴蘭の毒を浴びた妖怪だっていっても調べるしかないじゃない。いつ日か自律人形を作る為にね」
 そう力説する私を、幽香はどこか可哀想なものを見るような眼差しで見つめていた。
「……なによ」
「なんでもないわ。そんな所もアリスらしいし。でも、だったら尚更仲良くなるのは難しいと思うわよ。あの子人形を操ってる人間が嫌いみたいだし」
「そこが問題よね……話しかけようとしたら攻撃されちゃったし」
 その時の包帯を見せると、やれやれといったようなため息をつかれた。
「でも、なんとかして仲良くなりたいのよ。研究とは別にあの娘自身とも。私はもう魔法使いになっちゃったけど、人間の中にも人形をただの物としてだけじゃなく大事にしてくれてる人もいるって分かってくれれば……」
 カップに残っていた紅茶を飲み干して、私は言葉を続けた。
「……それに、少なくともあの娘の怪我だけでも直してあげたいの」
「……あの子、怪我なんてしてたの?」
 それまで黙って聞いていた幽香が口を挟んだ。どうやら幽香が会った時にはそんな目立った傷はなかったようだ
「うん。右腕の関節の所が壊れてたの。今はまだ動いてるみたいだったけど、あのまま放置してたらまずいことになりそうだったから。……だけど、ほら、あの娘鈴蘭の毒の影響受けてるでしょう? だから普通の人形と同じように直しても意味ないかもしれないと思って……」
「それで私の所に鈴蘭について聞きに来た、と」
「そう、そういうこと」
 幽香は黙ってカップに新しく紅茶を注いだ。つんとしたハーブの香りが部屋に満ちあふれる。
「……なるほどね。私の知識が役に立つんだったら鈴蘭について教えてあげるわよ」
「本当? ありがと、助かるわ」
 私は率直に感謝の気持ちを伝えた。
「……でもね」
 そう言うと幽香はにんまりと頬を歪ませ、とても艶美な笑顔を浮かべた。
 この顔は知ってる。見るだけで冷や汗をかいてしまいそうなそれは、とても嫌らしいことを考えている時の表情だ。
「これだけは覚えておきなさい。あの子は貴方が望んでいる本当の自律人形よ。自分の意志で考え、歩いて行動してる自律人形。だからこそ、絶対に貴方の思い通りになんてならない。決して貴方の望んでいる人形なんかじゃない。それだけはちゃんと忘れないように、ね」


東方の風見幽香さんを毒々しく愛し続けてみた




ゆうかりんと食べたい
ゆうかりんと毒を食べたい
家に帰るとね、なんと珍しい事に、ゆうかりんがおやつを用意して待っててくれたんだよ いつもおやつは俺が用意するまで手を出さないってのにね
あるいは俺に隠れて食べちゃうとかそんな感じのゆうかりんが俺のためにおやつを用意しててくれたんだよ たまにはこんな変わった事もあるもんだね
ネクタイを緩めつつ「なんか嬉しいなあ」って言ったら「いいから早く座りなさい」って言われてね 照れ隠しなのかな、逆に何とも心地良い言い方だよ
で、言われるがままにテーブルに着くよ ゆうかりんの向かいに座ったらさ、ゆうかりんがめっちゃニコニコしてるんだよ 俺もニコニコしてるだろうけど
それ以上にニコニコしてるんだよね テーブルの上にはお皿が二つ、半切りのバウムクーヘンが一つずつ乗ってるんだ ゆうかりんと俺の分かと思ったけど
どうやら違うみたいでね、ゆうかりんはスッとその二つの皿を俺の方に押し出してくれるんだよ 二つも食べていいのかしら、ちょっと贅沢な日になるよね
小っちゃいフォークを一つだけ渡されてね、そしていざ食べようかと思ったら、どちらか一つの皿を選ぶように言われるんだよ 直前でピタッと手を止めて
どういうことなのかゆうかりんに聞いてみるよ 「これはゲームよ。見た目の変わらない二つのバウムクーヘン、片方は普通の、片方は毒入りよ」
テーブルに肘をついて両手の指を組んで、そこに顎を乗っけて非常にいやらしい笑みを見せてくれるゆうかりん 俺に与えられたのは選択権というやつで
どうやら俺はどちらか片方を必ず食べないといけないらしいよ それにしても「毒」なんて物騒な事を言うよね、基本的にこの子やる事が物騒なんだよね
俺が「ハハハご冗談を」みたいに言ったら「冗談で済んだら毒としての効果が無いわ」とか言い出すんだよ なんでまたこんな変な遊びをするんだろう
ちなみにね、どんな毒なのか聞いてみたら「お腹がすっごく痛くなるの。私が嫉妬するくらい、おトイレと仲良くなれるわよ」って笑ってくれたんだけども
相当めんどくさそうだよね、この時点で結構めんどくさいのにますますめんどくさい事になりそうだよ ゆうかりんが何をしたいのかってのは大体わかる、
俺が困ったり苦しんでるところを見たいんだろうね、一番近くで 完全二択で執拗に惑わされたりトイレに篭って汚い音を鳴らしたりして歪む俺の表情を
脳内でスクラップして楽しいんだろうね、自分は口元に手を当ててくすくすと笑うつもりなんだろう 全く、幻想郷の子って趣味の悪いイタズラが好きだよね
でね、ゆうかりん、「自分でもどっちに毒を入れたか覚えてない」とか言い出すんだよ 公平で公正だってことを表すためにそうやったらしいんだけどさ
それがいいのか悪いのかは現時点じゃわからないよ 適当な仕事とはいえ俺は人里でお勤めを終えてゆうかりんの元に帰って来たっていうのに
どうしてこんな面倒臭いゲームをしないといけないんだろうね、ただ一言「やだ」って言ってシャワーでも浴びにいけばいいんだろうか ちょっと冷たいかな
で、もしかしたらゆうかりんは嘘をついてるのかもしれない どっちに毒が入ってるのか知ってるのかもしれない ほんと楽しそうに俺の顔を見たり
俺の手元を見たりしてるんだよ このままゆうかりんの手の内にハマるのも癪だよね ここで俺は一つ、物事の根本を変えないある方法を提案してみるよ
「わかった、じゃあ俺が片方を食べるから、残った片方をゆうかりんが食べて」ってね、優しそうな表情を作って言ってやるんだ これには驚いたみたいで
ゆうかりんから短く「えっ」て言葉が出るよ ゆうかりんがいるのにバウムクーヘンを独り占めなんてできないよ、やっぱり一緒に食べたいんだよね、
という事にしてゆうかりんに笑いかけてやるとゆうかりんが引きつった表情になるのがわかるよ 試しに左側のお皿を取って手元に寄せてやって
「じゃあ俺はこっち食べるから、ゆうかりんそっちね」って言ってやる さっきまであんなに楽しそうだったのに今は目をひたすら泳がせまくっていてね
小っちゃい声で「今はお腹いっぱいかな……」とか言っちゃうゆうかりん それズルいよ!食べてよ!俺も食べるから!一緒に食べるの!ね!ゆうかりん!
うふふふふふふふふふふふふふふふ


脳内メルヘンなメンタルは、きっと白雪姫に憧れるのよ



 白雪姫は魔女からもらった毒入りリンゴを囓ったせいで死んだ。
 はたして本当にそうだろうか?
 彼女を殺したのは毒の持つ殺傷能力ではないと過程する。毒はリンゴに入っていたのではなく、彼女の恋心だったんじゃないだろうか。恋という毒が彼女の全身を巡り巡って、命を奪った……そうは考えられないだろうか。
 魔女を口実に恋を利用したのではないか。毒リンゴは王子様に会うための切符だと気がついていたとしたら。本当は毒など入っていなかった、もしくは解毒する方法を準備していたとしたら。最初から、物語の冒頭から魔女の策略に気がついていたとしたら。
 きっと白雪姫はたいした策略家だ。
 白雪姫を殺したのは毒ではなく、恋だったのではないか。

 ――恋は盲目、愛は猛毒。自分の意志とは関係なく、その人自身を狂わせる。

 だとしたら、私は白雪姫になりたい。
 燃え尽きるような恋は、愛し方を知らない私には荷が重い。
 リンゴを囓る勇気をが欲しい。策略家のような知恵が欲しい。右も左もわからないのが恋愛である。増してや妖怪の自分に恋愛など不安でしょうがない。
 私、風見幽香は恋をしていた。

 ☆☆☆☆☆

「ありがとう、だなんて在り来たりな言葉は言わないから」
 怪我。注意一秒怪我一生ということわざがあるけど、それを体感した私。
 他人より丈夫だと自負していたが、不注意から怪我を煩っていた。弾幕勝負からの不注意。何気ない怪我だったが、部位が足だったためにスペルカード戦からかなり時間が経過した今になってこの身をふらつかせた。
 それを通りかかった一人の男がケアしてくれた。いきさつはこんな所である。
「治してもらう義理なんてないのに……酔狂な人間だこと」
 あくまでも突っ慳貪に彼を扱ってしまう。
 見たところ、好青年といったところか。かといってそこまで端正な顔立ちでもない。いたって普通の男性。善人そうで好感が持てるから好青年。
 優しさに触れたのは何年ぶりだろうか。あまり他人とは絡まない主義である私は、そもそも優しさに触れることはなかった。しかも人間からの優しさなんてむこう百年はないのではないかとさえ思っていたが、まさかこうして触れることになるとは。
「貴方、名前は? …………そう、素敵な名前ね」
 献身的に怪我の手当をしてくれた男性。その名を素敵と思ってしまった自分が悔しい。どうかしている。私、風見幽香がこんな感情を思うはずがない。
 本来、私は冷酷な妖怪のはずだ。自分で暗示するように、冷酷だと思い込むことにしている。そのほうが何かと気が楽だからだ。孤独、とまではいかないが持ち前の性格上誰ともなじめないと前々から感じていた。なら、私から皆を遠ざけてしまったほうがいい。そういう思考のため。
 冷酷のはず……だったが、私の中の何かが変わっていた。冷酷という感情とは別に、何かが私の身を狂わせるように感じた。ろくでなしの毒が感情を食い殺す、とでもいったところか。
 毒。
 他者に興味を持たない私に酔ってきたこの男のことを、私は気になってしまったのだ。私がシンデレラなら、男は毒。
 このときは気がついていなかったけど、恋という毒に犯されていたのだろう。その始まり、きっかけ、初期症状がこのときだったということだ。
 怪我を治してもらっただけで、見ず知らずの男のことを好きになる。そんな単純な、漫画のような話があってたまるかと自分でも思う。くだらなすぎる。それでも、些細なことが私の心に種をまいたのだった。
 恋の始まりなんて、たいした理由なんていらないじゃない?

 ☆☆☆☆☆

 昔、あるところに本当は誰よりも心が醜い白雪姫がいました。
『私は物語の主人公。だから全てを受け入れる。だって成功が約束されてるから』
 小人たちは白雪姫にいいました。
『私たちは何をすればいいんだい?』
『私の駒となりなさい。おどけなさい。私が全てを手に入れた暁には、あなたたちを立派な身分にしてあげるから。森の小人なんて立場じゃない、素敵な立場。どこかの官僚にしてあげる。好きなだけ物を食べて異性を買って贅沢すればいいわ』
 白雪姫の言葉は毒。
 小人たちは毒にかかって白雪姫の駒に成り下がってしまったのでした。
『ここにくる魔女は私にとってのターニングポイント。チャンスを生かすも殺すも私次第。私は一度死んで、全てを手に入れる。それが知略戦、約束された成功。憐れな魔女をせいぜい歓迎してあげなさい』
 ワルツと共に白雪姫の策略が始まる。
 魔女は妬み嫉み、こんな生き方は懲り懲りだとわかっていても白雪姫にリンゴを与えてしまいます。いつだって読み手にとって悪は理解されません。悪に対する描写など、童話は示してくれないのです。
 もちろん白雪姫は狡猾です。全てを知った小人たちを、物語が終わると同時に森ごと焼き払います。虐殺によって、隠蔽を実行するのです。
 ヒロインとは、得てしてエゴイストでなければ成立しないのでした。

 ☆☆☆☆☆

 過剰に摂取した毒はますます私を狂わせる。
 ストーカーという言葉がある。いわゆる付きまとい。私はストーカーが悪いとは思わない。気持ちが歪んでしまっただけなのだから。ストーカーしてる本人が一番「してはいけないこと」だって把握してるはず。
 それなのにどうしてストーカー行為をしてしまうか? もちろん恋、愛、恋愛。感情とは別の毒が彼ら彼女らストーカーを動かすからだ。自分の気持ちとは裏腹に、実行に移させてしまう。
 嗚呼、狂想曲。馬鹿故に生物は毒に狂う。恋愛中毒、パラサイトされたハート。
「……あら、また会ったわね」
 どうやら彼は夕方、仕事の帰りに決まってこの道を通るらしい。私はそれを知ってから毎晩道路に通うようになった。そう、待ち伏せである。偶然を装っての待ち伏せ。
 気になって、気になって、気になって。
 最初は、気になって。
 毎晩、三十分たらずのたわいのない会話。幸い彼は妖怪の私にも怖がらず、普通に接してくれた。話していくうちにどんどん彼のことが気になっていく。
 心が彼で満たされていく。
 処女・童貞のような胸中と笑われても仕方無い。話せば話すだけ好きになる、だなんて子どもの恋愛じゃあるまいし、と。だが私にとっては子どもの恋愛が大人の恋愛だった。
 今まで他者と接しようとしなかった私が他者と接する、というのは劇薬を摂取するのと変わらなかった。他人にとっては普通のことでも、私にとっては過剰な出来事だった。言ってしまえば、ウブなのである。自分自身、人とのコミュニケーションに体勢がまったくなかった。
「奇遇ね。……別に貴方のことを待ち伏せていたわけじゃないんだけど」
 妖怪の私にとって時間などあってないようなものだ。
 彼のことが気になって、待ち伏せして、会話する。その繰り返しで時間は過ぎていく。何日、何週間、何ヶ月。恋心とは別の感情で、単純に心のどこかで彼の影が張り付いていたから。それが恋心に変換されていくのにそう時間はかからなかった。
 過ぎ去った時間は見事に私の心を塗り替えていったのだ。
 星を見るたびに思う。私は夜空の星のように、誰かの道しるべとなる光を放てるのか?
 誰かの星になれるのなら、生物の存在意義は星になることじゃないのか。
 花も同じだ。誰かの道しるべとなるために、一輪の花が咲いている。星のように手の届かない存在だから軽視されがちだけど、万物の価値の重みは変わらない。
「私はこの道を使うのが趣味なのよ。人間の貴方には理解出来ないでしょうけどね」
 星に、花に、道しるべに。
 必要とされたい。救いになりたい。必要としたい。救いが欲しい。
 はしかという病気がある。漢字だと麻疹と書く病。小さいころにかかるのと、大人になってからかかるのとでは大きく違う。大人になってからはしかになると、最悪……死に至る。
 恋愛も同じだ。処女・童貞の思考も同じだ。免疫がないからこそ、小さい頃に体験してこなかったからこそ、大人になってからだと訳がわからなくなる。こじらせる。
 彼のことを殆ど知らないくせに、恋に落ちるのは立派にこなす。
 あの、風見幽香が。
 妖怪として、同族から人間から恐れられた存在、風見幽香が恋愛している。ロジックで心に言い訳をして、馬鹿みたいに慌てている。
 愚かだ、間抜けだ、狂いそうだ。自分でわかっているのに、思考や感情とは別に彼に必要とされたがっている。私のことを何も知らない彼に。彼のことを何も知らない私が。
 脳髄が蕩けている。どろりと垂れた脳髄は耳からこぼれて地面から花を咲かせる。花は私に畏怖の視線を投げつける。花は私自身。
 恋をすることは怖い。怖い。怖い。
 愛を知ることは辛い。辛い。辛い。
 恋愛は怖くて辛い、そして切ない。
「今日はどんなことがあったの? 人間の話には興味があるから、よかったら聞かせてもらえないかしら? もちろん、拒否権はないわよ」
 口から出る言葉は嘘ばかり。
 ごまかすのが嘘。心に嘘をつく。
 ピノキオは嘘をつくと鼻が伸びる。しかし、伸ばした鼻は天狗のように雄々しい。だとしたら嘘をついたまま堂々としていれば、本人にとっては何も問題がないはずだ。
 恋愛は嘘をついて、傲慢になって、意中の相手に自分の都合の良いように扱う。正確には扱う、らしい。恋愛論は人それぞれであり、借りてきた言葉を塗り固めて、武装して、打ちのめされて、改めて初めて自分の言葉となる。
 嘘をつくことは恋愛における武器。
「へぇ、そんなことがあったのね。素敵ね」
 嘘だ。
「私も昔、同じような経験をしたわ」
 嘘だ。
「あら……貴方と私って相性がいいのかもしれないわね」
 嘘だ。
「嘘が嫌いなのよ、私。だから本当の貴方を……もっと知りたい」
 真実だ。
 知りたい。
 嘘だ。
 嫌いなくせに嘘をつく。
 嘘だ。
 真実だ。
 嘘。
 真実。
 嘘、真実、嘘、嘘、真実、嘘、真実、真実、嘘、嘘、嘘、真実、嘘、真実、嘘、真実、真実、真実、真実、嘘、真実、愛、愛、毒、愛、毒、愛、愛、愛、毒、そして恋。
 言葉では伝えきれない想い。過剰な言葉で上塗りして、少ない言葉で情報が薄くなる。




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